漆塗り解説
漆塗りの工程数は、実に60を越えた。これは本工事の最も主眼となるもので、この出来映えが金箔(五倍箔)押し(金箔を張ること)に大きな影響を与える。漆を塗り、研ぎ、また塗り、研ぐという作業の反復は単調であるが、それだけに強靭な精神力と卓抜した技術を要求する。
仮設を施された金閣は、一個の大きな漆塗りの場となり、美しい漆黒の金閣が完成するまで本作業は絶えまなく続けられた。
用語解説
漆塗り | |
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木地固め | 木の狂いを止めて、木肌を固くするために、生漆を木に浸み込ませること。 |
刻苧掻込み (こくそかいこみ) |
木の割れ・継目・隅に、麦粉糊と生漆にケヤキの木の粉を入れて混ぜたものを、埋めて平らにすること。 |
布掻込み (ぬいかいこみ) |
姫糊(でんぷん)と麦漆(小麦粉と漆を混合したもの)を混ぜ合わせたもので、大きな割れに麻布を重ねて張ること。 |
地直し | 木地の表面の凹凸を埋めること。 |
空研ぎ (からとぎ) |
漆層の表面を滑らかにするために、水をつけずに砥石だけで肌を磨くこと。地付け、錆付けの度ごとに行う。 |
固め | 漆層を固くするために、地付け、錆付けごとに空研ぎをして、生漆を塗ること。 |
布着せ | 木地の割れや継目を堅固にし、木の地痩せを防ぐために、麻布を張ること。 |
地付け | 漆層を厚くするとともに、木の地痩せを防ぐために地の粉と糊と生漆を混ぜ合わせたものを付けること。一度地付けするごとに空研ぎをして地固めをする。 |
水研ぎ | 水をつけて砥石で表面を平らにすること。 |
錆付け | 漆面を丈夫にするために、水研ぎした後、砥の粉と水と生漆を混ぜた錆下地を付けること。(錆は当て字で、細土が語源) |
下塗り | 上塗りを美しく仕上げるために、油分を含む漆を塗ること。塗った後、炭を用いて研ぐ。 |
中塗り | 上塗りを美しく仕上げるために、精製した漆を塗ること。塗った後、駿河炭を用いて研ぐ。 |
上塗り | 最後の漆塗り。 |
黒蝋色漆塗り (くろろいろうるしぬり) |
真夏に採取する日本産生漆の盛(さかり)物を原料とした黒蝋色漆を塗る。蝋色仕上げをしたものは、漆黒の美しさを表す。 |
蝋色研ぎ (ろいろとぎ) |
漆面を細かにするために、炭で研ぐこと。仕上げに、蝋色炭を使用する。 |
捨摺り (すてずり) |
上塗りを研ぎ炭で艶消しした後、良質の和紙を用い、生漆をすりこむこと。 |
胴摺り | 漆の肌をさらに細かにするため、砥の粉と水を混ぜて純毛の布か、脱脂綿で摺ること。 |
上摺り | 胴摺り後、一昼夜乾燥させ、良質の和紙を使って漆を少量残しながら拭き取ること。 |
油胴摺り | 油と砥の粉を混ぜて、脱脂綿で磨くこと。その後、砥の粉を付けて手の平で拭き上げ、油を取る。 |
磨き | 油と角粉(つのこ)をつけて、脱脂綿で磨くこと。 |
金箔押し | |
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五倍箔 | 通常の金箔の五倍の厚み、重量を有する金箔。今回の金閣の補修工事のために新開発されたもの。 |
箔下漆 | 金箔を貼付ける時に使用する漆のこと。 |
重押し (かさねおし) |
一枚の金箔の上にもう一枚箔を押すこと。 |
漆塗り基礎工堤
準備工程
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漆の剥離(前回の漆剥取り)
金閣寺大修復
剥離
金箔の剥離作業(三層 外部)
金閣寺大修復
木地固め
漆塗りを開始する(三層 外部)
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木地出し(前回の漆剥取り)
金閣寺大修復
剥離
剥離後、現われた木地(二層 外部)
- 木地固め(一回目)
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木地固め(二回目)
金閣寺大修復
木地固め
- 刻苧(コクソ)掻込・布掻込(一回目)
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刻苧掻込・布掻込(二回目)
金閣寺大修復
刻苧
木地固め後、柱部分の刻苧掻込(三層 内部)
- 刻苧地直し
地直し
- 全面地直し(一回目)
- 空研ぎ
- 固め
- 研ぎ
- 地直し(二回目)
- 空研ぎ
- 固め
- 研ぎ
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地直し(三回目)〔床は更に数回〕
金閣寺大修復
地直し
同じ作業の反復が堅牢な漆層を作る(二層 外部)
- 空研ぎ
- 固め
- 研ぎ
布着せ
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布着せ(地付一回目)
金閣寺大修復
布着せ
麻布を張りヘラで押える(二層 内部)
- 布空研ぎ(節払い)
- 布目しごき
- 空研ぎ
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生漆の箆摺り
金閣寺大修復
布着せ
ヘラで密着させる(三層 内部)
- 空研ぎ
地付け
錆付け
-
錆付(一回目)
金閣寺大修復
錆付け
一回目の錆付けが終わった壁面(三層 内部)
- 空研ぎ
- 固め
- 研ぎ
- 錆付(二回目)
- 空研ぎ
- 固め
- 研ぎ
- 錆付(三回目)
- 空研ぎ
- 固め
-
水研ぎ
金閣寺大修復
錆付け
鯖付けの後、研ぎと固めを繰り返す(三層 外部)
- 固め
- 水研ぎ